2026.02.13
院長ブログ
私が同じ屋根の下ではじめて過ごしたペットは、両親が買ってきたボールニシキヘビでした。その次にやってきたのは、ボールニシキヘビの餌を飼いに行ったペットショップで母が一目ぼれして衝動買いしてきたグリーンイグアナでした(今だったら𠮟り飛ばしていますね……)。はじめて自分の責任のもとで飼育した動物は、弟が友達からもらってきたクサガメでした(なんで私が面倒みてんねん)。自分の小遣いではじめて買った動物はヨツユビリクガメ。そんなわけで、私の動物との付き合いは、爬虫類からスタートしています。
なので、私の動物飼育の考え方は、爬虫類飼育をベースにしているところがあります。犬や猫の飼育について考えるときも、しばしば、爬虫類飼育的な観点を持ち込みます。爬虫類特有と考えられている考え方が、実は犬や猫の飼育にも役立つんじゃないか、と思われることがよくあるからです。
今日は、その最たるものについてお話ししたいと思います。
「環境を飼う」ということについてです。
「爬虫類を飼うとは、環境を飼うことである」と言われます。爬虫類は、許容できる環境条件の幅が犬や猫(なにより我々人間)に比べて狭く、その種が求める適切な環境を整えてあげなければ、健康に飼育することができないからです。
かつて、エジプトリクガメというカメが大量に日本に輸入され、数千円という安さで売られていた時代がありました。リクガメですから、きちんと飼われていれば当時の個体がまだ生きていてもおかしくないはずですが、現在の日本で、飼育されているエジプトリクガメに出会うことはほとんどありません。名前の通り乾燥した地域にすむエジプトリクガメは、日本の蒸し暑い夏に耐えることができず、バタバタと死んでいってしまったからです。当時は飼育用品もほとんどなかったため、エジプトリクガメに適した環境を作ってあげることが難しかったという事情がありました。
このような爬虫類に元気に暮らしてもらうためには、温度や湿度、神経質な種なら風通しに至るまで、ケージ内の環境を彼らに合うように整えてあげなければいけません。ケージ内をどれだけ彼らの生息地の環境に近づけられるかが、爬虫類飼育成功の鍵となります。発生する病気も、環境の不備に起因するものがほとんどです。
これが、「爬虫類を飼うことは環境を飼うことである」と言われる所以です。だから、犬猫に比べて爬虫類飼育は難しい、とも言われます。
でもね。環境を飼うことであるというのは、ほんとうに爬虫類だけの話なのでしょうか?
私は、そうではないと考えています。
確かに、犬や猫は、適応力の高い生き物です。猫は猫舌ですが、困窮した野良猫は、食べ物が熱い冷たいなどと贅沢を言っていられないので、加熱した食べ物も食べられるようになります(人間の文明と猫の貧困が同じ舌を産むのは皮肉なものだと、昔読んだ本に書いてありました1)。だからと言って、猫のための環境を整える必要はないのでしょうか?
答えは否、です。
たとえば、特発性膀胱炎という病気があります。特発性というのは原因不明という意味ですが、ストレスが影響していることがわかっています。また、発症のリスクファクターとして、「完全室内飼育」が挙げられています2。普通の人間の居住空間では、猫はストレスを感じてしまい、病気になってしまう可能性があるということです。
勘違いしないでくださいね。猫は外飼いのほうがいい、と言っているわけではありません。完全室内飼育の猫は、野良猫に比べて3倍も長生きすることがわかっていますから。ただ、猫を家の中に入れただけでは、まだ足りない、ということなんです。猫がストレスを感じにくい環境をお部屋の中に整えてあげれば、特発性膀胱炎の発症リスクは下がります。猫の生態生理に合わせた環境づくりを行うことで、はじめて、猫を病気にさせない「完全室内飼育」が達成されるのです。
適切なトイレ、隠れて落ち着けるような暗がり、高いところから周りを見渡せるタワー。猫を飼うときも、健康を維持するためにこういった「猫のための」環境づくりが必要です。その点では、爬虫類を飼うのとなにも変わりません。
別の例を挙げると、シーズーという犬種がありますね。この犬種は、ペキニーズとラサ・アプソという犬種の掛け合わせによって作り出されました。ラサ・アプソはチベット原産の犬種、ペキニーズもチベットに源流を持つ犬種です。冷涼で乾燥したチベットで生まれた祖先を持つシーズーは、乾燥から身を守るための適応として、皮脂の分泌量が一般的な犬種より多くなっています。
乾燥した気候では有用なこの体質が、高温多湿な日本の夏には裏目に出ます。皮脂の多い肌は、多湿な環境では細菌や真菌が増殖しやすく、皮膚炎を起こしやすくなってしまうのです。
このような皮膚炎に対しては、余分な皮脂をシャンプーで洗い落としたり、炎症を抑えるお薬を飲ませたりして対処することが多いです。けれど、それ以前の対策として、空調をフル活用して家の中を涼しくし、適度に除湿することで、皮膚炎を起こしにくくすることができます(別の要因を併せ持っていることも多いので、完全に予防できるわけではありませんが)。
シーズーが健康に過ごせるように、部屋の温度や湿度をチベットに近づけてあげる。これは、エジプトリクガメのために部屋の湿度をコントロールするのとまるっきり同じことです。
このように、犬や猫を飼うときも、環境のコントロールは重要です。「環境を飼う」のはなにも、爬虫類飼育だけの特徴ではないわけです。そして、「環境を飼う」ためには、犬や猫がいったいどんな生態・生理を持つ生き物なのかをきちんと知らなければいけません。
その動物がどんな場所に住み、どんな生活をしているのかをきちんと知り、その知識をもとに、飼育環境を工夫し、向上させていく絶え間ない営み。それが動物を飼うことだと思います。
行徳どうぶつ病院は、動物が健康に暮らせる環境づくりもお手伝いしたいと考えています。お悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。