2025.12.01
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「うちの子、また床に顔をこすりつけてる…」
散歩から帰った後、ごはんの後、気づくと愛犬が床や壁、ソファに顔をグリグリ擦りつけている。最初は「かわいいな」と思っていたその仕草、実は病気の重要なサインかもしれません。
犬が顔を擦りつける行動は、強い痒みの表れである可能性があります。「そのうち治るかも」と様子を見ている間に、その痒みは悪化していくかもしれません。

この記事でわかること
犬が顔を床や壁、家具に繰り返し擦りつけるのは、人間が我慢できない痒みで掻きむしるのと同じ状態です(1)。
手で掻けない代わりに、顔を擦りつけているのです。
以下の症状が一つでもあれば、動物病院へ:
これらは症状が進行しているサインです。
犬が顔を擦りつける原因は多岐にわたり、見た目だけでは判断できません。以下、代表的な病気を解説しますが、これらの診断には獣医師の専門的な診察が不可欠です。
皮膚のバリア機能の低下から環境中のアレルゲン(花粉、ハウスダスト、カビなど)に対する過敏反応が起こり、痒みを生じる皮膚病です(3)。
特徴的な症状
アトピー性皮膚炎は放置すると確実に悪化します。掻き続けることで皮膚が傷つき、二次感染を起こし、さらに痒みが増すという悪循環に陥ります。
特定の食べ物のタンパク質に対して免疫システムが過剰反応する病気です(6)。犬で多いアレルゲンは牛肉、乳製品、鶏肉、小麦、ラム肉など(7)。
見逃せないサイン
食物アレルギーは「フードを変えれば治る」と思われがちですが、原因となる食材の特定には専門的な検査が必要です。自己判断でフードを変え続けると、症状が悪化したり、本当の原因が分からなくなったりします。
皮膚の細菌感染も、顔面の痒みの重要な原因です(9)。
感染が起こると、皮膚が赤くなり、脱毛やフケなどを伴います(2)。アレルギーなど他の病気に続いて二次的に発生することが多いです。
パグ、ブルドッグ、シーズー、ペキニーズなど顔にしわの多い犬種は要注意です(10)。
なぜ起こるのか
「毎日拭いているから大丈夫」と思っていても、しわの奥まで清潔に保つのは困難です。定期的な獣医師のチェックが必要です。
「顔を擦りつける=皮膚病」とは限りません。目の病気でも同じ行動をします(11)。
まぶたが炎症を起こす病気です(12)(13)。
症状チェックリスト
原因はアレルギー、細菌・真菌感染、寄生虫、目の構造異常など多岐にわたります。
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーのある犬では、結膜(まぶたの裏側と白目を覆う膜)にもアレルギー反応が起こることがあります(14)。
放置すると
顔の痒みの治療は、原因によって異なります。
食物アレルギーが原因の場合、除去食試験を行い、原因となる食材を特定して避けます。
アトピー性皮膚炎の場合は、抗ヒスタミン薬、ステロイド、免疫調整剤など組み合わせて調整します。
ステロイドスプレーやクリームなど外用薬を併用する場合もあります。
細菌感染には抗生物質、マラセチア感染には抗真菌薬が使用されます(2)(24)。治療期間は通常3〜4週間以上かかります(23)。
眼瞼炎や結膜炎の治療には、点眼薬や眼軟膏が使用されます(12)(13)。症状が改善するまで、エリザベスカラーの装着が必要になることもあります。
当院では、日本獣医皮膚科学会認定医 春日陽一郎先生による専門外来を設けています。
1. 正確な原因特定
2. 個別化された治療計画
3. 長期管理のサポート アレルギー性疾患の多くは完治ではなく、症状のコントロールが目標です。定期的なフォローアップで、愛犬に最適な治療を継続的に調整していきます。
食物アレルギーの場合
アトピー性皮膚炎の場合
膿皮症の場合
眼瞼炎・結膜炎の場合
A. いいえ、今すぐ受診してください。
顔を擦りつける行動が見られる時点で、犬は相当な痒み・不快感を感じています。様子を見ている間にも症状は進行し、二次感染や角膜損傷など、より深刻な状態になる可能性があります。
「何もなければ安心」のためにも、早期受診をお勧めします。
A. 必ず獣医師に相談してください。
一時的に改善したように見えても、根本原因が治療されていなければ再発します。また、不適切なシャンプーは症状を悪化させることがあります。
A. 食物アレルギーが原因の場合でも、自己判断でのフード変更は危険です。
食物アレルギーの診断には、獣医師の指導のもとで行う「除去食試験」が必要です。自己判断でフードを変え続けると、原因の特定が困難になります。
A. 以下の犬種は特に注意が必要です。
ただし、これらの犬種以外でも発症します。
A. 原因や重症度によって異なります。
初診時の検査・診察で、おおよその治療方針と費用をご説明します。費用面でのご心配があれば、遠慮なくご相談ください。
犬が顔を擦りつける行動は、「助けて」というサインです。
これらの病気は、見た目だけでは鑑別できず、自宅ケアでは治りません。
監修
行徳どうぶつ病院
院長 名古孟大
日本獣医皮膚科学会認定医 春日陽一郎先生の専門外来
皮膚疾患でお困りの際は、専門外来をご利用ください。
(1) Moriello KA. Pruritus in Animals. Merck Veterinary Manual. 2024. https://www.merckvetmanual.com/integumentary-system/integumentary-system-introduction/pruritus-in-animals
(2) Souza CP. Algorithmic Approach: Diagnosis and Treatment of Pruritus in Dogs. Today’s Veterinary Practice. 2024. https://todaysveterinarypractice.com/dermatology/pruritus-in-dogs/
(3) Nuttall TJ, Marsella R, Rosenbaum MR, et al. Update on pathogenesis, diagnosis and treatment of atopic dermatitis in dogs. J Am Vet Med Assoc. 2019;254:1291-1300.
(4) Kennis RA. Distribution patterns and differential diagnoses of pruritus in dogs. Auburn University College of Veterinary Medicine. 2019. https://www.vetmed.auburn.edu/wp-content/uploads/2019/10/6_Distribution-patterns-and-differential-diagnoses-of-pruritus-in-dogs_KENNIS.pdf
(5) Cornell University College of Veterinary Medicine. Atopic dermatitis (atopy). Cornell Richard P. Riney Canine Health Center. https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/riney-canine-health-center/canine-health-topics/atopic-dermatitis-atopy
(6) Moriello KA. Cutaneous Food Allergy in Animals. Merck Veterinary Manual. 2025. https://www.merckvetmanual.com/integumentary-system/food-allergy/cutaneous-food-allergy-in-animals
(7) Mueller RS, Olivry T. Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals. BMC Vet Res. 2018;14(1):24.
(8) Veterinary Skin & Ear Clinic. Food Allergies In Dogs. 2025. https://veterinaryskinandear.com/food-allergies-in-dogs/
(10) Hillier A, Lloyd DH, Weese JS, et al. Antimicrobial use guidelines for canine pyoderma by the International Society for Companion Animal Infectious Diseases (ISCAID). PMC. 2025. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12058580/
(11) Peña MT, Leiva M. Canine Conjunctivitis and Blepharitis. Vet Clin N Am Small Anim Pract. 2008;38:233-249.
(12) Clinicians Brief. Identifying Causes of Eyelid Inflammation in Cats & Dogs. 2023. https://www.cliniciansbrief.com/article/eye-inflammation-cats-dogs-atopic-allergy-dermatitis-eyelid-causes
(13) PetMD. Blepharitis in Dogs. 2023. https://www.petmd.com/dog/conditions/eyes/c_dg_blepharitis
(14) Murphy S, et al. Diagnosing, Treating, and Managing Causes of Conjunctivitis in Dogs and Cats. Today’s Veterinary Practice. 2021. https://todaysveterinarypractice.com/ophthalmology/conjunctivitis-in-dogs-and-cats/
(15) Peña MT, Leiva M. Canine Conjunctivitis and Blepharitis. Vet Clin N Am Small Anim Pract. 2008;38:233-249.
(19) Olivry T, DeBoer DJ, Favrot C, et al. Treatment of canine atopic dermatitis: 2015 updated guidelines from the International Committee on Allergic Diseases of Animals (ICADA). BMC Vet Res. 2015;11:210.
(23) VCA Animal Hospitals. Pyoderma in Dogs. https://vcahospitals.com/know-your-pet/pyoderma-in-dogs
(24) Marsella R. An update on the treatment of canine atopic dermatitis. PMC. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6067670/