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エキゾチックアニマルを診たい学生さんへ

2025.11.24

院長ブログ

行徳どうぶつ病院では、犬猫以外のどうぶつ、いわゆるエキゾチックアニマルの診療も行なっています。そのため、将来、エキゾチックアニマルを診る獣医師になりたいという学生さんが、見学に来られることがあります。

そんな学生さんたちにお伝えするのは、「エキゾをやりたいのであれば、まず犬猫の診療経験を積んでください」ということです。これは私個人の考えではなく、エキゾチックアニマル診療をしている獣医師に広く共有されている考えだと思います。犬猫の診療経験のある人しか雇いません、というエキゾ専門病院もあるくらいですからね。

なぜか。エキゾチックアニマルの診療は、犬猫の診療がベースとなっているからです。

これには、異議を唱える方もいらっしゃるかもしれません。なんでやねん、犬とトカゲなんて全然別のどうぶつやろが、犬猫の常識が通用するかい、なんてね。正直に言うと、私もはじめはそう考えていました。でもね、やっぱりエキゾを診るためには、犬猫の診療経験が必要なんです。

今日は、そこのところ、なぜ、エキゾチックアニマルを診るのに犬猫の診療経験が必要なのかということを、掘り下げて書いてみることにします。

「犬猫の診療がベースになっている」ということには、2つの要素があります。

ひとつは、技術。

わかりやすいのは採血でしょうか。犬猫の血管は、身体が大きい分、当然ながら多くのエキゾチックアニマルの血管よりも太いです。柴犬の脛のところにある静脈は、ウサギの大静脈くらいの太さがあります。けれどね、採血をしたことがない人は、その「太い」血管でも、採血を失敗しちゃうんです。そんな状態で、もっと細いウサギの血管から採血ができるでしょうか。ウサギはストレスに弱いですから、時間をかけてなんどもなんどもやり直すわけにもいきません。

エキゾの採血をするためには、血管が太くて、採血に協力的な子が多くて、身体が大きいのでがちっと身体を抑えても大丈夫な、採血しやすい犬や猫の採血を通じて、まず採血自体がうまくなる必要があります。血管の細い子猫や、なかなかじっとしてくれない犬の採血がスムーズにできるようになってはじめて、ウサギの血管にも針が当たるようになる。

ほかの手技でも同じです。レントゲンをとるときも、エキゾよりは頑張ってくれる、協力してくれる犬猫相手に経験を積み、適切なポジショニングを頭に叩き込んでいるから、エキゾの撮影をするときに最小限の保定でさっと撮ることができるんですね。

これが、「犬猫の診療がベースになっている」ことのひとつの要素です。

ただ、より重要なのは、もうひとつの要素です。

それは、「病気を診断する」という思考の枠組み。

ある「症状」を呈するどうぶつがいる。皮膚科の記事でもひとつの症状に対していろいろな原因があることを紹介しているかと思いますが、症状と原因は一対一対応ではありません。このどうぶつでこの症状が出たら原因はコレ、という簡単なものではない。だから獣医師はそのどうぶつを前にして、何がその症状を引き起こしているのかを追究していきます。飼い主さんからお話を聞き、どうぶつの状態をよく観察し、必要に応じて様々な検査をする。このときの思考の進め方には、一定の「型」があります。

例を挙げましょう。

身体をびくびく震わせる全身けいれんを繰り返すどうぶつがいるとします。このどうぶつを診るとき、獣医師は、一足飛びに、「原因はこれではないか」と考えることはしません。けいれん発作を起こす原因はおおきく3つのカテゴリーに分けられるので、まずはそのどれに該当しそうかを判断します。

3つのカテゴリーのひとつは反応性発作と呼ばれるものです。これは、ざっくり言えば身体に原因がある発作。中毒や肝不全、腎不全、低血糖、低カルシウム血症などの病気がまずあって、それが脳に影響を与えて発作が起こります。

ふたつめは構造的てんかんと呼ばれるものです。脳梗塞などの血管障害や、脳炎、脳腫瘍など、脳に構造的な異常が起きていて、それによって発作が起こります。

みっつめは特発性てんかんと呼ばれるものです。脳炎などの構造的な異常がみつからないのに発作が起こります。特発性とは「原因不明」という意味ですが、遺伝子の関与が証明されているタイプのものも含まれます。

特発性てんかんは、多くの場合、反応性発作の可能性と構造的てんかんの可能性を否定することでしか診断できません(なにしろ原因不明ですから)。構造的てんかんの診断には、多くの場合MRIが必要になりますが(一部の感染症は、血液検査で調べることができます)、ほとんどの動物は麻酔をかけなければMRIを撮ることができません。反応性発作であれば、身体に異常が起きているので、血液検査や超音波検査など、麻酔をかけずにすぐにできる検査で見つけられる可能性が高いです。

そのため、獣医師はまず、反応性発作の原因となるような異常がないかどうかを調べます。そして、そこで異常が見つかれば、その異常を引き起こす病気をリストアップし、そのどれに該当するのかを調べるステップに進みます。異常がとくに見つからなかったら、MRIなどを駆使して、構造的てんかんの原因となる脳内の異常がないかどうかの調査に進みます。MRIを後回しにするのは、麻酔によるどうぶつへの負担が大きいからです。麻酔をかけなくても見つけられる原因で発作を起こしているどうぶつに麻酔をかけると、どうぶつに無駄なリスクを負わせることになります。なので、先に麻酔をかけずに診断できる原因を調べておくのです。まずは動物に負担の少ない検査からはじめて、見つけやすい(かつよくある)病気をチェックしていき、原因がわからない場合に、より負担の大きい検査に進んでいくというのが、どうぶつに優しい診断の進め方です。

MRIにより構造的てんかんの原因となる異常が見つかれば、さきほどと同じく、その異常を引き起こす病気をリストアップし、そのどれに該当するのかを調べていきます(MRIの場合は、その写り方で病気の特定ができることも多いですが)。それも見つからなければ、特発性てんかんと判断して治療をはじめます。

このように、獣医師は、まずおおまかなカテゴリーのどれに該当しそうかを判断し、該当するカテゴリーが特定できたら、そのカテゴリーに含まれる個々の病気について検討する、というように、徐々に的を絞っていくことで診断を進めていきます。この犬種では脳炎が多いといったデータはもちろんありますが、それは「構造的てんかん」というカテゴリーに落とし込んだあとではじめて検討するもの。脳炎の多い犬種だからといって肝不全による発作が起きないわけではないですから、見落としを防ぐために網羅的に、順を追って検討していくのです。

このような診断の「型」は、動物種が違っても変わりません。ウサギだろうがフトアゴヒゲトカゲだろうが同じです。ウサギでは構造的てんかんの原因のひとつとしてエンセファリトゾーンによる脳炎が考慮されるし、フトアゴヒゲトカゲでは反応性発作の原因のひとつとしていわゆるくる病による低カルシウム血症が考慮される、というだけの話です。ウサギだって低カルシウム血症になる可能性がないわけではないですし、フトアゴヒゲトカゲにだって脳炎を引き起こす病原体はいます。トカゲのけいれんだからくる病だ、と安直に判断はできません。必ず網羅的にみていく必要があります。

で、このような診断の「型」を身に着けるには、犬猫の診療を通じてトレーニングを積むのがいちばんなんです。犬猫では、さまざまな疾患の診断基準やガイドラインが確立されていて、どの検査をどの順番で行なえばよいか、検査でどういう結果が出たらどの病気と判断するのかが比較的よくわかってきています。受けさせられる検査の種類も多い。ある症状を前にして、どのように診断にたどり着けばいいのか、進むべき道を記した地図がある程度できあがっている。知らない土地に行くときにGoogle Mapのお世話になるように、道の進み方を把握するには地図を手にしておくに越したことはありません。

残念ながら、多くのエキゾチックアニマルではこの地図がまだ十分にはできあがっていません。ぽつりぽつりと、エンセファリトゾーン症があるなぁ、くる病があるなぁ、というのが書かれているだけ。検査も犬猫ほどなんでもできるわけではなく、あいだを繋ぐ道は、シーカータワーを起動する前のハイラルみたいに(このたとえ前にもしましたか?)おぼろげです。そんな状態でいきなり飛び出したら、道に迷い、雪山で遭難して死ぬだけです。けれど、犬猫の診療で身に着けた地図と方向感覚があれば、どちらに進めばいいのか、あたりがつけやすくなります。ヒョウモントカゲモドキにはこの検査はできないし基準値もない。でも、こっちの方向に進んできたら先にはおそらくこれとこれがあるから、それらを想定した治療をしてみよう、というふうに。だからまず、犬猫の診療で地図を手に入れておくんです。

これが、「犬猫の診療がベースになっている」ことのほんとうの意味です。

もしいま、これを読んでいるあなたがエキゾをやりたい学生さんだとしたら、将来はエキゾ専門医を目指しているのだとしても、まずは総合病院で修行を積むことをおすすめします。そして犬や猫のことも、ちゃんと好きになってください。「スキルアップのために嫌々やる」というのでは、どうぶつの命は預かれませんからね。遠回りに見えても、結局はそれがいちばんの近道になるはずです。

ちなみに行徳どうぶつ病院では、いつでもみなさんの見学を受け入れています。

よろしく。