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どうぶつの皮膚疾患に効果的な療法食の種類と選び方

2025.05.11

皮膚疾患の治療においては、薬物療法とともに「療法食」による食事療法が重要となります。

今回は、犬猫の飼い主様に向けて、

  • 食事が皮膚に与える影響
  • 一般食と療法食の違い
  • 皮膚疾患用の療法食の種類
  • 療法食の使い道

について解説します。

食事が皮膚に与える影響

栄養素

食べ物に含まれる栄養素は、皮膚や被毛の健康状態に直接影響します。

具体的には、以下のようなものが大事です。

  • 蛋白質
  • 必須脂肪酸
  • ビタミンやミネラル

蛋白質は皮膚の細胞の原料となります。また、食物から摂取する必要がある必須脂肪酸は皮膚のバリア機能を維持するために重要です。さらにビタミンやミネラルは皮膚の新陳代謝や炎症反応の調整に関与しています。これらの栄養素が不足すると、皮膚の状態が悪くなり、皮膚疾患の発症につながることがあります。

アレルゲン

食べ物に含まれる蛋白質を身体が異物と判断し、アレルギー反応を起こすことがあります。犬や猫では、人間と異なり、食べ物によるアレルギーが喉頭浮腫などの強い症状を引き起こすことはありません。代わりに、皮膚の痒み・赤みとして現れることが多いです。

総合栄養一般食と療法食の違い

一般的には「総合栄養食」と呼ばれるドッグフードを日常的に与えているかと思います。総合栄養食は、健康などうぶつが必要とするすべての栄養素をバランスよく含んだ完全食です。これと新鮮な水さえあれば、基本的な健康維持に必要な栄養をすべて摂取できるよう設計されています。

一方、療法食は病気の治療・管理を目的に開発されたものです。皮膚疾患に対する療法食は、アレルゲンとなる成分を排除したり、皮膚の健康に特化した栄養素を強化したりと、症状改善に直接働きかける特殊設計になっています。

療法食は獣医師の指導のもとで使用することが推奨され、専門的な知識に基づいた選択が必要です。

療法食が必要な理由

一般的なペットフードでは対応できない特殊な栄養ニーズがある場合に、療法食が必要となります。それぞれの詳細については、この後のセクションで解説します。

皮膚疾患に用いられる療法食の種類と適応例

皮膚疾患に対する療法食は、主に以下の目的で使用されます。

  • アレルゲンの排除または低減
  • 皮膚バリア機能の強化
  • 炎症反応の緩和
  • 免疫機能の調整

目的に応じて、様々なタイプの療法食があり、そのなかから、症状や原因に応じて選択していきます。
各療法食の特徴と使用目的について解説します。

新奇蛋白食 – アレルギーが起こりにくい食材でつくられた食事

新奇蛋白食の特徴

新奇蛋白食(ノベルプロテイン食)は、これまでにどうぶつが摂取したことのない、または接触の機会が極めて少なかった蛋白源を使用した療法食です。食物アレルギーは、以前に摂取して感作された食物に対して引き起こされるため、新奇蛋白食を用いることで、症状を軽減できる可能性があります。

代表的な製品例

新奇蛋白食の代表的な製品には以下のようなものがあります。:

セレクトプロテイン(ロイヤルカナン):蛋白源としてカモ、タピオカ、米、魚、じゃがいもを使用

ピュアプロテイン(動物アレルギー検査株式会社):単一の蛋白源と最小限の原材料で構成された製品。チキン、サーモン、小麦の3種類がある

d/d(ヒルズ):蛋白源としてサーモンやカモ、じゃがいもを使用

これらの製品は、一般的なドッグフード・キャットフードに含まれる鶏肉、牛肉、豚肉、乳製品などの一般的なアレルゲンを含まないように設計されています。

どんな症例に適しているか

新奇蛋白食は主に、食物アレルギーの治療に用いられます。

その他、他の皮膚疾患用の療法食にたいして拒食反応を示す場合や食物不耐症の場合にも選択肢の1つとして使用されます。

加水分解蛋白食 – アレルギー反応が起こりにくい加工をした食事

加水分解蛋白食の特徴

加水分解蛋白食は、原料となる蛋白質をアミノ酸(蛋白質の最小構成単位)やペプチド(アミノ酸が少数つながった分子)レベルに分解した食事です。

蛋白質をアレルゲンとして認識されにくいサイズにまで分解し、小さくすることで、アレルギー反応を防止する効果が期待されています。また、分解されている分、通常のフードよりも蛋白質の吸収がよりスムーズになります。

代表的な製品例

加水分解蛋白食の代表的な製品には以下のようなものがあります。

  • アミノペプチドフォーミュラ(ロイヤルカナン):蛋白質をアミノ酸ないしオリゴペプチド(ペプチドの中でも小さいもの)レベルまで分解して使用しています
  • 低分子プロテイン(ロイヤルカナン):蛋白質を小さなサイズ分解して使用しています。アミノペプチドフォーミュラに比べると蛋白質のサイズは大きいです。
  • z/d(ヒルズ):低分子プロテインと同様、蛋白質を小さなサイズに分解して使用しています

どんな症例に適しているか

加水分解食は主に食物アレルギーと食物不耐症の治療として利用されます。

皮膚バリア機能を高める食事

皮膚強化食の特徴

皮膚強化食は、皮膚のバリア機能を高め、炎症反応を抑制する栄養素を強化した療法食です。

主要な強化成分は以下のようなものがあります。

  • 必須脂肪酸(オメガ3・オメガ6脂肪酸)
  • ビタミンE
  • 亜鉛
  • 抗酸化物質(ポリフェノール、フラボノイドなど)

必須脂肪酸やビタミンEは角質層の皮膚バリア機能の回復や皮膚炎の緩和に有用です。

亜鉛も重要な成分で、健康な皮膚と被毛の生成を助け、新陳代謝を促し傷の回復を早める効果があります。さらに皮膚の免疫機能をサポートして外敵から守ります。

抗酸化物質は、細胞の老化を防ぎ、皮膚にとってのダメージを軽減させます。:

これらの成分が適切なバランスで配合されることで、皮膚のバリア機能が強化され、外部からの刺激に対する抵抗力が高まります。また、すでに生じている炎症反応を緩和し、健康な皮膚状態への回復を促進します。

代表的な製品例

皮膚強化食の代表的な製品には以下のようなものがあります。

  • セレクトスキンケア(ロイヤルカナン):必須脂肪酸とビタミンEを強化しています。
  • ダームディフェンス(ヒルズ):オメガ3脂肪酸や亜鉛を豊富に配合しています。
  • オールスキンバリア(ヒルズ):新奇蛋白質として卵と米のみを使用したうえで、ビタミンE、オメガ3脂肪酸など皮膚の健康に寄与する成分を強化しています。

どんな症例に適しているか

皮膚強化食は主にアトピー性皮膚炎の治療に用いられます。

皮膚疾患の療法食を与える際の重要ポイント

食事療法には、療法食の効果を最大限に引き出すためのポイントがいくつかあります。

①食事管理

食物アレルギーの治療中では、食事管理を療法食のみに厳選する必要があります。例えば、どの蛋白質がアレルギー反応を起こすか調べるために療法食を使用している場合です。この場合は、おやつなど療法食以外に口にするものも制限されますので、詳しくは獣医師までご相談下さい。

②すぐに食事療法を中止しないこと

「療法食に変えたのに、効果が出ない…」というご相談をよく耳にします。

皮膚が新しく生まれ変わるには3週間~1ヵ月くらいの時間が必要なため、治療を始めてから変化が見られるまで少なくとも1 ~ 2ヵ月程度はかかります。皮膚の状態によっては、さらに長い期間が必要な場合もあります。

動物病院で処方された療法食を食べさせ、焦らずに経過を見て行きましょう。

ただし、療法食に変更して症状が明らかに悪化した場合は、その食事が合っていない可能性があります。このような場合は、すぐに獣医師に相談しましょう。

食事療法の効果を確認するポイント

療法食による皮膚疾患の治療効果を判断するには、いくつかのサインがあります。

  • かゆみや皮膚の赤みの軽減
  • 舐める・噛むなどの自傷行動の減少
  • 耳の炎症や二次感染の改善
  • 消化器症状(下痢、嘔吐など)の改善

まず、かゆみの頻度や強さが減少し、皮膚の赤みが薄くなってくることが初期の改善サインです。また、これまで頻繁に見られていた体を舐める・噛むといった自傷行動が減少するのも効果の表れと言えるでしょう。耳の炎症や皮膚の二次感染による臭いや分泌物が改善されることも良い兆候です。さらに、皮膚疾患と消化器症状は関連していることが多いため、下痢や嘔吐などの消化器症状が落ち着いてくるのも効果の表れかもしれません。被毛の質やツヤが改善し、フケが減少するのは、やや長期的に見られる効果の1つです。これらの変化を総合的に観察することで、療法食の効果を確認することができます。

食事療法をはじめるときの注意点

療法食による食事療法を始める際、胃腸への負担を減らすため、7〜10日かけて今までの食事に新しい食事を少しずついれ、段階的にその割合を増やしていきましょう。急な食事変更は消化器症状を引き起こす可能性があるためです。

また、今まで食べていた食事とはエネルギー量が異なるためパッケージや獣医師の指示に従った適切な量を与えましょう。

まとめ

皮膚疾患に悩むどうぶつの治療において、療法食は単なる「特別な食事」ではなく、治療の中核を担う重要な要素です。お薬を与えるのと同じような心構えで、与えるようにしてください。

監修:行徳どうぶつ病院