2023.05.26
狂犬病予防接種のシーズンになりました。
「毎年お知らせが来るから打ってはいるけど、どうして予防しないといけないのだろう?」「狂犬病ワクチンには何が入っているの?」そんな疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。副作用を心配される方もいらっしゃるでしょう。
今回は狂犬病ワクチンについて解説し、そのような疑問に答えていきたいと思います。
狂犬病ウイルスによる感染症であり、症状が現れてしまうと100%命を落とす恐ろしい病気です。
感染すると1ヶ月から数ヶ月後に落ち着きがなくなる、光を嫌がるといった前駆症状が現れます。その後、周囲の刺激に対して過敏に反応し、興奮状態となり、目の前に現れるあらゆるものに咬みつこうとするようになります。狂犬病ウイルスは唾液腺で増殖し、発病動物は喉の麻痺により唾液を飲み込むことができなくなるため、発病動物が咬みつくことによって、ウイルスは他の動物に伝搬していきます。発病動物は最後には全身が麻痺し、昏睡状態に陥り死亡します。
日本では1957年以降発生していませんが、多くの国に蔓延しており、世界で年間5万人以上の方が亡くなっています。
前述のように、日本は現在、狂犬病の発生がなく、狂犬病清浄国とされています。それなのになぜ、予防接種をしなければいけないのでしょうか?
日本は、かつて狂犬病が蔓延していた地域です。狂犬病ウイルスはすべての哺乳類に感染しますから、現在、清浄国と認定されていても、人知れず、野生動物がウイルスを保有している可能性は否定しきれません。
実際、日本と同じく清浄地域とされていた台湾では、2013年に野生動物から狂犬病ウイルスが発見され、遺伝子検査の結果、あらたに海外から侵入したのではなく、かつて台湾に存在したウイルスの生き残りであることが判明しました。同じことが日本で起こらないとも限りません。
また、日本は密輸大国であり、密輸も絶えません。北方領土からは検疫を受けずにロシアから犬がやってきます。ロシアは船に犬を乗せる風習があるためです。これらの動物たちが狂犬病ウイルスを持ち込む危険は常にあります。
そのため、予防接種をやめるわけにはいかないのです。もし、野生動物が隠し持っているウイルスが犬に感染したとしても、飼い犬の7割以上がワクチンで予防していれば、犬の間で蔓延することを防ぐことができます。狂犬病ウイルスの人間への一番の感染源は犬ですから、犬の間で蔓延を防ぐことができれば、人間への感染リスクを下げることができます。
狂犬病ワクチンは不活化ワクチンと呼ばれるもので、ウイルスが病気を引き起こさないよう処理をされたものとなります。当院で取り扱っている狂犬病ワクチンの成分表を見ると、
・HmLu細胞培養狂犬病ウイルスRC・HL株
・チメロサール
・リン酸緩衝食塩液
と書かれています。
1番上はワクチンのメインになる不活化ウイルスです。不活化されているので、このウイルスが病気を引き起こすことはありません。
チロメサールは防腐剤です。ワクチンの細菌汚染、腐敗、原料の破壊を防ぎ、ワクチンの効果を薄れにくくします。チロメサールは砒素水銀の一種であるエチル水銀を含むため、安全性で心配されている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、水銀中毒で有名な水俣病の原因となるメチル水銀とは異なり、エチル水銀は体内で速やかに代謝されるため、ワクチンに含まれる量は問題ないとされておます。
リン酸緩衝食塩液は溶剤です。生体内と同じ成分で構成された液体であり、無毒で安全性が高いものです。ワクチンの成分を安定させる効果があります。
「でも動物先進国のオーストラリアでは狂犬病の予防接種しないよ」「アメリカでは3年に1回だけしか打たないよ」そんな話を聞いたことがあるかもしれません。日本の狂犬病対策は欧米に比べて遅れていると言われることもあります。
実際のところ、狂犬病対策は国それぞれの事情に合わせられています。
オーストラリアで接種義務がないのは、日本と違い、狂犬病が一度も発生したことがない国だからです。野生動物が隠し持っている可能性は限りなく低いので、義務化しなくてもよいのです。
アメリカで3年に1回しかワクチンを打たないのは、日本のものより強いワクチンを使っているためです。免疫が長く持続するメリットがある反面、副反応が現れやすいです。
日本では安全性を重視し、効果は短いけれども副作用の少ないワクチンを使っているのです。
狂犬病は未だ世界中に存在しており、いつ日本に入ってくるかわかりません。国内に蔓延した場合の根絶は非常に難しく、人も犬も危険にさらされることになります。身近にないからこそ、狂犬病がいかに恐ろしい病気であるか、犬と一緒に暮らす人間ひとりひとりが意識していくことが大切です。
浦安、行徳近辺で狂犬病ワクチンについて詳しくお聞きになりたい場合は、お気軽に行徳どうぶつ病院グループまでお尋ねくださいませ。
行徳どうぶつ病院
獣医師
大山 美雪