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猫の慢性腎臓病2―療法食について―

2022.11.11

腎不全は、人間の医療では腎移植が唯一の治療法とされていますが、動物医療では移植療法が確立されていないため、実質的に腎臓病を治す手段はありません。
腎臓は一度壊れると回復することはできないため、腎臓病の治療は残りの機能を維持することが大切になります。

食事療法の重要性

中でも食事療法は寿命を延ばすのに有用といわれ、近年は腎臓に負担をかけないフードも増えています。
獣医師の診断を受けてから試すことのできる動物用療法食もあります。
腎疾患向けの動物用療法食は、一般にたんぱく質、リン、ナトリウムの含有量を下げ、脂質、オメガ-3脂肪酸、カリウム、緩衝剤を強化されています。
ただしこちらはあくまでも療法食であるため、一般の食事としてや病気の予防には使えません。

腎臓に良いとされる特定の栄養素はありませんが、正しいバランスで栄養を摂ることが腎臓の負担を和らげる結果につながります。
また、一般的には低たんぱく食が良いとされています。
しかし猫は元来肉食動物であるため、たんぱく質を取らずに生きていくことはできません。
ただたんぱく質を食べさせないようにするだけでは、逆に体調を崩す恐れがあるのです。

栄養素ごとの腎臓への影響

それぞれの栄養素が腎臓にとってどのように作用するかをご紹介します。

・たんぱく質
たんぱく質は三大栄養素の一つです。肝臓で分解され、アンモニアという毒素を産生します。
さらに、アンモニアを毒性の低い尿素に変えることで、腎臓から排出して外に出す仕組みになっています。
腎臓が悪くなると毒を排泄できなくなるため、食事内のたんぱく質を減らす栄養療法は有効であるとされています。

・リン
リンは生物の体を構成する上で欠かせない栄養素です。
なぜ腎臓に良いのかというメカニズムは解明されていませんが、リンを減らした動物用療法食によって寿命が延びたという研究結果がいくつかあるため、
腎臓の負担を減らすことはできると考えられています。

・ナトリウム
ナトリウムは塩類とも呼ばれ、細胞の働きや血圧の維持に関係します。
体の中には、ナトリウムが多い場合は尿に排泄するという血圧の調整の仕組みがあります。
人では塩類が多くなると血圧が高くなり、腎臓の細胞に大きな負担を与えることになると言われていますが、猫の場合は直接腎臓の細胞を害していると考えられています。
そのため、腎臓病の時はナトリウムをあらかじめ制限したほうが良いとされています。

・カリウム
カリウムはナトリウムと相対的な関係にあり、細胞の動きや筋肉、血液のバランスに関係しています。
腎臓病が進行した猫はカリウムの再吸収が難しくなり、低カリウム血症を起こしやすくなります。
カリウムを増やしてあげることで血液のバランスを保ちやすくなり、カリウムの枯渇を避けることでアンモニアの産生も抑えられると考えられています。

・オメガ-3脂肪酸
人では心疾患、関節疾患、精神疾患に効果があるとされている成分です。
猫ではそれらに加え抗酸化物質と合わせることで、腎臓の酸化障害を防ぎ、機能を保護する効果があると考えられています。
主に魚の油から取れるEPA、DHAがもっとも良いとされています。

・抗酸化物質
ビタミンE、ビタミンC、βカロテンは、慢性腎臓病の猫についての実験で、細胞のDNA障害を減らしたという研究報告があります。
そのため、オメガ-3脂肪酸と合わせて摂ることで腎臓の保護ができると考えられています。
ちなみに、猫にとってビタミンCやβカロテンは必要な栄養素ではありません。
ビタミンCは体内で合成できるので必須ではないですし、βカロテンをビタミンAに変換できないからです。
動物用のフードに入れられているビタミンは、主に抗酸化作用を目的としたものです。

・緩衝材
体のpHは通常弱酸性ですが、慢性腎臓病の動物は強い酸性に傾くことがあります(代謝性アシドーシス)。
市販されている腎疾患向けの動物用療法食は緩衝材を含み、尿と血液をアルカリ性寄りにするよう調節されています。

・水分
水分を十分に摂ると腎臓の負担を軽減することができます。
ドライフードにはほとんど水分が含まれていませんので、ウェットタイプの腎疾患用療法食を食べるのも良いでしょう。
もちろん、通常の飲み水をたくさん飲めるように、生活の工夫をするのも大切です。

まとめ

猫は腎臓病になりやすいからこそ、たくさんの研究が重ねられ、さまざまな治療法が日進月歩で生まれています。
病気だからと諦めたりせず、まずは獣医師の診断を受けて、適切な食事を与えることから始めてみましょう。
浦安、行徳近辺で猫の腎臓病について詳しくお聞きになりたい場合は、お気軽に行徳どうぶつ病院グループまでお尋ねくださいませ。

行徳どうぶつ病院
獣医師
大山 美雪