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ワシントン条約について

2026.03.13

院長ブログ

去年の11月に、ワシントン条約締結国会議が開催されました。日本人に馴染みの深いウナギを附属書Ⅱ類に掲載するかどうかが議題のひとつとなったため、ニュースで聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。私はテレビを観ないので、世間一般でどれくらい騒がれたのかわかりませんが、少なくとも私の生息地であるX Twitterでは大騒ぎになっていました。

その大騒ぎのなかで、「ワシントン条約で規制されたらウナギを食べられなくなってしまうのではないか」と懸念している人をよく見かけました。ウナギが掲載を提案されたのは附属書Ⅱ類なので、かりに可決されたとしても必ずしも食べられなくなるわけではありません。しかし、象牙や鼈甲のイメージから、「ワシントン条約=取引の禁止」という印象が広く持たれているのだと思います。

実際には、ワシントン条約の附属書に記載されたからと言って、すべて商取引が禁止されるわけではありません。うちで飼育しているヨツユビリクガメも附属書に記載されていますが、その辺のペットショップで1ばんどうろのコラッタくらいよく出会うことができます。もちろん合法です。日本で飼うことのできるいわゆるエキゾチックアニマルの中には、同様のものがたくさんいます。

エキゾチックアニマルを飼育するうえで無視することができないワシントン条約ですが、正しく向き合うには正しい理解が欠かせません。

実態を誤解されがちなワシントン条約について、今日はお話ししたいと思います。

ワシントン条約の概要

名称について

ワシントン条約は、正式名称を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といいます。1973年にワシントンD.C.で採択されたことからワシントン条約と呼ばれていますが、実務の場では、英語表記(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)の頭文字をとって、CITESと呼ばれることが多いです。本稿でも、以降はCITESと表記します。

附属書について

CITESは、附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲという3つのリストを設け、商取引に制限が必要な動植物をリストアップしています。数字が小さいリストに掲載された種ほど、国際取引に強い規制がかかります。

附属書Ⅰ

附属書Ⅰには、国際取引による絶滅の可能性がもっとも高い種が掲載されます。代表例はジャイアントパンダやトラ、チンパンジー、コツメカワウソなどです。当院で診療経験のある動物では、インドホシガメ、ビルマホシガメなどが該当します。ペットとして人気のあるチンチラも、野生個体はⅠ類に記載されています。

附属書Ⅰに記載された種は、商業目的での輸出入が原則として禁止されています。学術目的での取引は可能ですが、輸出国・輸入国双方の許可が必要です。ホウシャガメやビルマホシガメのように、認可された繁殖施設で繁殖させた個体が流通することはあるものの、基本的にペットとして飼育する目的で取引することはできません。

附属書Ⅱ

附属書Ⅱには、現時点では絶滅のおそれが高くないが、取引を管理しなければ将来的に危機に瀕するおそれのある種が記載されます。有名どころを挙げるならオオカミやライオン、ハンドウイルカなどでしょうか。最近、ふれあいを謳ったアニマルカフェがXTwitterで炎上して話題のスナネコもここに該当します。当院で診療経験のある動物では、ブンチョウやウロコインコ、ヘルマンリクガメ、ボールパイソン、グリーンイグアナなどが該当します。

附属書Ⅱに記載された種は、輸出国の許可があれば輸出することが可能です。そのため、ペット用に流通する機会も多くなっています。

附属書Ⅲ

附属書Ⅲには、特定の締約国が、自国内での保護のために、他国の協力を求めて掲載を要請した種が掲載されます。

要請国からの輸出には許可証が必要となり、それ以外の地域からの輸出には原産地証明書が必要となります。その辺の道でこんばんわすることがあるハクビシンも、インドの個体群は附属書Ⅲに記載されていて、許可なくインドから輸出することはできません。

締結国会議

CITESは、2年に1度、締結国会議を開催することを定めています。締結国会議では、条約の運用に関わる重要事項について審議が行われます。各附属書に追加する種、削除する種について見直しも会議の目的です。

国内取引への影響

CITESは国際条約なので、基本的に国内取引に関与することはありません。附属書に記載してある種であっても、Ⅱ類、Ⅲ類については自由な国内取引が可能です。ペットショップでイグアナを買っても、いちいち役所に届け出る必要はありませんね。

Ⅰ類だけは例外で、締結国は国内法で取引を制限するよう求められます。日本では「種の保存法」という法律で、取引に規制をかけています。ホシガメやヨウムなど、Ⅰ類に記載されている動物はマイクロチップで個体識別されており、環境省に登録のある個体でなければ飼育・取引ができません。前述のように、特別に認可された繁殖施設で繁殖させた個体を買うことができたり、Ⅰ類掲載前から飼育していた個体を飼い続けることができたりするので、Ⅰ類の種を現在も飼育している人は多く存在しますが、厳しく管理されているのは事実です。

CITESに記載されている種

ここでは、一般的に見かける可能性がある動物の中で、CITES附属書に記載されているものをいくつか紹介していきたいと思います。附属書Ⅰ類はほとんど見かけることはないはずですから、主にⅡ類記載の種を紹介します。なお、全種とされている分類群のうち一部は、Ⅰ類に記載されています。

哺乳類

  • フェネック
  • スナネコ など

鳥類

  • ブンチョウ
  • キュウカンチョウ
  • オウム目全種(キセイインコ、オカメインコ、コザクラインコ、ホンセイインコを除く)
  • フクロウ目全種
  • タカ目全種 など

爬虫類

  • リクガメ科全種
  • オオトカゲ属全種
  • ニシキヘビ科全種
  • ボア科全種
  • イグアナ属全種
  • トッケイヤモリ
  • カメレオン属全種 など

こうしてみると、意外に多くのCITES附属書記載種が、ペットとして流通していることがわかります。「ワシントン条約で保護されている動物」は、思ったよりも身近な存在なのです。

CITESとの向き合い方

CITESは商取引を「禁止」する条約ではないこと、そのため、CITES附属書に記載されている種も身近に流通していること。CITESと正しく向き合うためには、この2点を押さえておく必要があります。

第一に、正規輸入された動物の飼育者を、まるで犯罪者であるかのように非難してはいけません。CITESは、持続可能性を担保し、動物の取引を維持できるようにするための条約だからです。定められた輸出枠内の正規輸出は、完全に合法です。それを買う人にももちろん罪はありません。

一方で、それを買う人は、「取引に規制が必要な動物を買っている」ことに自覚的でなければいけません。CITESはあくまで商取引に関する条約です。したがって、そもそも需要がなく商取引されていないような種は、絶滅寸前であっても記載されません。CITESの附属書に載っているということは、商取引がその種の存続を脅かしうると考えられているということです。そういう動物を飼っているんだということは意識しておくべきだと私は考えています。

ここで、注意すべきことがあります。野生動物の密漁・密輸というと、CITESⅠ類の動物を思い浮かべがちですが、密猟・密輸が横行しやすいのは実はⅡ類の動物であるということです。未登録の個体を所持していると検挙されるおそれのあるⅠ類と異なり、正規輸入個体と密輸個体を識別する方法のないⅡ類は、税関さえ突破してしまえば、何も恐れるものがないからです。2019年にコツメカワウソがⅠ類に格上げされたのも、密輸が横行し、Ⅱ類のままでは食い止められなくなったからでした。奇しくも同じ2019年に日本に輸入されたスナネコについて動物園が警鐘を鳴らしているのも、スナネコがⅡ類の動物だからです。うちにもいるヨツユビリクガメも、実は取引状況が怪しくねぇか、と懸念を持たれ、去年1年間、最大の輸出国であるウズベキスタンからの輸出が停められていました(現在は再開しています)。

「ワシントン条約の動物だから飼ってはいけない」ということはないわけですが、制度をハックするやつもいるんだということは、飼育者として知っておかなくてはいけません。密輸個体を手にしてしまうリスクは、Ⅱ類の動物の方が高いのです。

野生動物の飼育は、多かれ少なかれ、野生個体群に影響を与える可能性があります。CITES附属書記載種はとくに、その影響を意識しなければいけません。

飼育者にできることは、なによりその子ができるだけ長生きできるように、しっかり飼ってあげること。行徳どうぶつ病院は、そのためのお手伝いに取り組んでおります。