狂犬病は、発症すると致死率ほぼ100%の恐ろしい感染症です。現在でも、世界中で年間5万人程度の人が、狂犬病に感染し亡くなっています。人間もどうぶつも感染する人獣共通感染症であり、人間は多くの場合、狂犬病ウイルスに感染した犬に噛まれることで感染します。そのため、狂犬病予防法という法律で、飼育されているすべての犬に、狂犬病ウイルスの感染を防ぐためのワクチンを接種することが義務付けられています。
犬を飼育しはじめたら90日以内に、その後は年に1回、ワクチンを打たなければいけません。狂犬病は犬も死に至る病気であり、ワクチン接種は、犬の命を守ることにもつながります。
日本は、50年以上狂犬病の発生していない清浄国とされています。しかし近年、清浄国とされていた台湾で、海外から持ち込まれたのではなく、国内にずっと潜在していたと思われるウイルス株による狂犬病の発生がありました。日本でも同様に、人知れず狂犬病ウイルスが生き残っている可能性は否定できません。また、野生動物輸入大国である日本は、海外から狂犬病ウイルスを持つどうぶつが持ち込まれるリスクも抱えています。国内であらたに狂犬病が発生した場合、ワクチンを接種している犬が少なければ、犬のあいだでウイルスが広がってしまうおそれがあります。一方で、多くの犬がワクチンを接種していれば、少なくとも街中で狂犬病が広まることはありません。治療法のない病気から人間と犬の命を守るために、必ず予防接種をするようにしてください。
狂犬病以外にも、犬の命を脅かすさまざまな感染症が存在します。とくに、犬ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬伝染性肝炎は重篤になることが多いです。これらの病気は適切なワクチン接種で予防することができるため、世界小動物獣医師協会のガイドラインでは継続的なワクチン接種が推奨されています。
生後8週令前後から、生後16週令を超えるまで、2〜4週間隔で接種を行います。繰り返し接種するのは、母子免疫の干渉を避けるためです。子犬は母犬から免疫を受け継いだ状態で生まれます(母子免疫)。母子免疫は生後一定の期間だけ維持され、その後はなくなってしまいます。母子免疫が維持されているうちは、ワクチンを打っても、子犬自身の免疫は獲得されません。そのまま母子免疫がなくなってしまうと、子犬は病気に対する免疫を持たないまま生きることになってしまいます。
母子免疫がなくなるころにワクチンを接種したいのですが、いつ母子免疫がなくなるのかは、犬によっても病気の種類によっても異なり、予測することができません。そこで、母子免疫がなくなり始める8週令前後から完全になくなる16週令以降まで繰り返しワクチンを打つことで、いつ母子免疫が切れてもいいようにしています。まれに16週令を過ぎても母子免疫が持続している犬がいるため、生後半年でもう1回ワクチンを接種することもあります。
その後は1年に1度、追加接種を行って免疫がなくならないようにしていきます。
フィラリアは、心臓と心臓から肺へつながる動脈の中に棲みつく寄生虫です。幼虫を保有している蚊に刺されることで感染します。感染しても、はじめのうちは無症状です。しかし、感染数が多くなると、血液の流れを妨げ、命に関わるようになります。
犬の命を守るためには、感染させないようにしなければいけません。とはいえ、絶対に蚊に刺されないように生活することは困難です。そこで、蚊に刺されてフィラリアの幼虫が体の中に入ってきてしまっても、定着する前に駆除薬を飲んで駆除することで感染を防ぎます。幼虫が体に入ってきてから1ヶ月以内に駆除すれば、定着を防ぐことができるとわかっています。そこで、月に1回駆除薬を投与することで、フィラリアの感染・定着を防いでいます。
近年は、温暖化の影響で蚊の発生する期間が長くなっており、1年中継続して予防を続けることが推奨されています。
犬の命を脅かす感染症には、マダニから感染するものもたくさんあります。ノミは命に関わるような感染症を運ぶことはあまりありませんが、貧血を引き起こしたり、アレルギーの原因になったりします。犬の健康を守るためには、これらの外部寄生虫の予防も必要です。フィラリアと同様、外部寄生虫も1年を通じて発生するようになっているので、1年中継続して予防することが推奨されています。
近年は、フィラリアと外部寄生虫を一緒に予防できるオールインワンのお薬が開発されているので、そのようなお薬を使うとよいでしょう。当院では、薬品アレルギーなど特別な理由がなければ、オールインワンのお薬を処方しています。
犬と同様、猫にもさまざまな伝染病が存在します。猫汎白血球減少症という病気は命にかかわることもあり、猫伝染性鼻気管炎や猫カリシウイルス感染症は、一度感染すると一生ウイルスが体に残り、繰り返し病気を引き起こすことがあります。定期的にワクチンを接種することで、これらの病気の発症を抑えることができます。
犬と同様、初年度は生後8週令頃から生後16週令を超えるまで、2〜4週間ごとの接種を行います。それ以降は基本的に3年に1回の接種でよいですが、ホテルに預けるなど、ほかの猫と接触する可能性がある場合は、1年に1回の接種をお勧めします。
猫にも、マダニから感染する伝染病が多くあります。とくに重症熱性血小板減少症症候群(SFTS)は猫の致死率が非常に高く、近年発症する猫が増えている危険な病気です。ノミはやはりアレルギーの原因になります。猫の健康を守るためには、ノミやマダニの予防が大切です。
また、犬ほどの頻度ではありませんが、猫もフィラリアに感染することが知られています。少数寄生でも、犬よりも強い症状が現れることがあります。予防薬は、外部寄生虫とあわせてフィラリアも予防できるオールインワンタイプのものがお勧めです。