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2025.06.15

院長ブログ

竹田城に行けなかった話

もう10年以上前になるでしょうか。天空の城と呼ばれる兵庫県朝来市の竹田城跡を見に出かけたことがあります。

当時勤めていた病院は、院長が2週間くらい病院を空けて南米に行ったりするような大の旅行好きで、勤務医にも旅行に出かけることを推奨していました。ただ推奨するのみならず、年に1度は1週間の休みをくれる(あらかじめシフトにビルトインされている)という徹底っぷり。行く行かないはもちろん自由ではありましたが、先輩たちもよく旅に出ていたので、出不精な私も触発されて、いろんな場所に出かけていました。

ただ、なにしろ計画性のない人間なので、休みの直前になってどこへ行こうかと考えだし、前の晩にホテルを予約することもざらでした。竹田城跡観光も、そのようにして決めた旅でした。

調べたのは竹田城跡への行き方とホテルだけ。観光サイトなど一切見ずに布団に潜り旅に備えました。

しかし、この計画性のなさによって、私は痛い目をみることになったのです。

翌日、当時静岡県に住んでいた私は、JR東海と喧嘩し続けていてのぞみを停めてもらえない静岡県に悪態を吐きながらひかりに乗り、姫路へ。到着したのは昼過ぎくらいでした。

「竹田城を見る」以外にとくに目的のない旅でしたが、ホテルにチェックインするまでには余裕があります。というかまだチェックインできる時間になってない。竹田城に行くのは翌日です。どこかで時間を潰さねばなりません(はやくも無計画の弊害が出ている)。なので、せっかくだから姫路城も見ておこうと思って、急遽向かうことにしました。こちらもユネスコの世界遺産に登録されている国宝です。見ておいて損はないと思ったのです。

ところが。

いざたどり着いてみると、なんと天守閣は改修中でした。足場が組まれネットが張られ、ほとんど見えない状態になっていたのです。

姫路の駅から姫路城まではそこそこ距離があり、私は日本の100名城がひとつを見るためにその距離をえっちらおっちら歩いたのですが、その労力はまるきり無駄になってしまいました。改修中なら公式サイトなどにお知らせが出ているはずですから、調べれていればわかったはず。見切り発車での行動が裏目に出てしまった形です。私は失意のうちにその場を去りました。

ただ、まあ姫路城ははじめの計画(というか前の晩の思い付き)には含まれていなかったものです。それが見られなくても、考えてみればそれほど大きな痛手ではない。明日見る竹田城がすべてだと気を取り直し、翌日の竹田城観光に備えホテルで休みました。

しかし、私のやらかしはこれだけではすまなかったのです。

次の日。竹田城を目指して出発した私は、最寄りの駅で降り、入山口へ向かうためにタクシーを捕まえます。

タクシーに乗り込み、勇んで「竹田城まで!」と口にした私。すると、運転手さんが怪訝な顔をします。

「にいちゃん、今日は竹田城、入れない日だけどいいのかい?」

「え?」

「いや、今日工事やってっからさ」

「工事……だと……?」

卍解が使えなくなった阿散井恋次みたいな顔で私はiPhone(私は絵文字も使えなかったころにiPhoneに乗り換えたイキリユーザーの一人です)で竹田城を調べました。すると、公式ウェブサイトには、確かに「◯日は重機の搬出があるため入山できません」とお知らせが載っていました。

な、なんという間の悪さ。

いえ、悪いのは間ではありません。

それは、土木工事なので当然ではあるのですが、半年前から告知されていたものだったのですから。

事前にしっかり調べていれば、この日を避けて、竹田城を見ることができたはずだったのです。それを「なんとかなるっしょ」という気持ちで調べずに来た、私の無計画が完全に悪い。

電話だけスマートでも意味がねぇだろと、まだSiriも搭載していなかったはずのiPhoneが溜息をつくのがはっきりと聞こえました。

結果、私はこの兵庫県への旅行で、何の成果も得られませんでした。

下調べって大事だなあと痛感した思い出です。

情報は事前に集めましょう

さて、もちろん動物飼育においても、下調べはとても重要です。自分が飼おうとしている動物はどんな動物なのか、どのように飼育するのか、飼育スペースはどれくらい必要なのか、お金はどれくらいかかるのかといったことをあらかじめきちんと把握し、準備しておくことで、飼育に伴うトラブルを未然に防ぎ、スムーズに飼育を始められるようになります。

動物飼育においてもっとも避けなければならないのは、生活に合わない動物を「買ってしまう」ことです。毎日数時間全力で走らせる時間をとれない人がボーダーコリーのような運動量の多い犬を飼えば、運動不足で心身の健康を損ねてしまうでしょうし、昆虫の苦手な家族がいる人がヒョウモントカゲモドキのような昆虫食の爬虫類を飼えば、大事なトカゲが家庭内不和の原因になってしまいます。そういった悲劇を招かないために、自分にその動物が飼えるのかをしっかりと調べておかなくれはなりません。

知識は本から得るのがいちばん

では、その下調べは、どのようにしたらよいのでしょうか。

ブログで情報発信をしている立場で言うのもなんですが、飼育方法を知るための情報源としては、本がいちばんだと私は思います。昨今ではインターネットでもさまざまな情報が手に入りますが、何もわからない状態から知識を得ていくのであれば、本に勝るものはありません。

情報源として本が優れている第一の理由は、情報の網羅性が高いことです。

多くの飼育書は、基本的な飼い方からかかりやすい病気のことまで、1冊にまとまっています。ですから、その1冊を読めば、その動物を飼うとはどういうことなのか、飼育の全体像を把握することができます。

動物飼育に限らず、「全体像を把握する」というのはとても大事なことです。ゼルダの伝説なんかでは、マップが解放されるととたんに攻略の見通しがよくなりますよね。飼育も同じです。全体像を把握することで、総額どれくらいお金がかかりそうか、世話にどれくらい時間を割かなければいけないか、ひいては最後まで飼いきれるかどうか、見通しが立てやすくなります。動物飼育においては本がシーカータワーです。まずはタワーを目指しましょう。

第二の理由は、内容の信頼性が高い(ことが多い)ことです。

本は著者、監修、編集、校閲と複数の人間による多段階のチェックを経て作られています。そのため、内容が大きく間違っていることはほとんどありません。誤字脱字に関しては、刷り上がった本の中でなぜか生まれる超常現象なので対応しきれないことがあるのですが、本質的な情報についてはほとんどの場合、誤りが潰された状態で出版されます。そのため、Wikipediaや(たとえ動物病院がやっていようと)個人レベルのウェブサイト、YouTubeチャンネルなどに比べて、内容が正しい可能性がずっと高いです。

ですから、情報の正確性を判断できるだけの知識がないうちは、本に書かれている情報を道しるべにすることで、誤った情報に踊らされてしまう危険を減らすことができます。

第三の理由は、検索性に優れていることです。

こう書くと、首をひねる方もいらっしゃるかもしれません。検索なら、インターネットのほうが優れているんじゃないのか、と。

確かに、検索したい言葉がわかっていれば、インターネットでの検索は有用です。検索窓に言葉を打ち込めば、一瞬で答えが表示されますからね。しかし、検索したい言葉がわかっていない不出来な生徒に対しては、Google先生はなかなか冷淡です。あやふやな検索ワードには、あやふやな検索結果しか返してくれません。そのため、本当に知りたいことにたどり着くまでにすごく遠回りをすることになります。私はイラスト描きもすることがあるのですが、「キャミソールサロペット」という名前を知らず、当該の服の作画資料を探すために「女性服」から検索を開始したことがあります。求める画像にたどり着くまでに1時間かかりました。

また、こうして文章を書くとき、「以前、どっかのサイトにこんな感じのことが書いてあったはず」という記憶を頼りに、過去にXかなんかで流れてきて流し読みしたサイトの情報を確認しようとして、URLやサイトのタイトルをきちんと覚えていなかったのでついぞ辿り着けなかった、ということもあります。

総じてインターネットは(というか、コンピューターは)こちらがわがふわっとしていると、ふわっとしか役に立ってくれないことが多いです。

一方で本、というよりはこれは人間の脳がすごいという話かもしれませんが、「たしか緑色の表紙の本の見開きで右上のあたりにこんなことが書いてあったような気がする」くらいのわたあめみたいな情報から、当該の本の当該の箇所を見つけることができます。過去に一度その本を読んだことがあれば、正確な文章や単語を忘れてしまっていても、ふたたびその情報にアクセスすることができるんです。これはすごい。それに、探したいものの名前を覚えていなくても、ページをぱらぱらめくっていれば視覚的に「それ」を見つけることができますしね。

一度読んだだけの文章を完璧に暗記できる人なんてそうはいません。多くの人は、失礼、少なくとも私は、「なんだったっけ、あれ、なんとかのなんとかって本に書いてあったやつ」くらいな記憶力で生きている。そんな記憶力の不自由な人間でも、ちゃんと内容を確認しにいける。おそらくこれこそが、インターネットが及びもつかない、本という情報媒体の優位性だと私は思います。はじめてその動物を飼う、覚えなければいけないことだらけの初心者の方こそ、この本の優位性に頼ることをお勧めします。

信頼できる本の選び方

とはいえ、本のなかにも、信頼性の高いもの、低いものはあります。大切な家族を迎えるための備えですから、なるべく信頼性の高いものを選びたいですよね。

間違いのない本選びのためには、以下のような点に注意してみてください。

参考文献が明記されている

参考文献というのは、その本を書くために、著者が情報源とした文献のことです。それは先に出版された書籍であったり、学術論文であったりします。

参考文献が明記されているとなぜよいのかというと、著者が自分の手の内をさらしてくれているからです。「この本を参考にして書きました」と公言していると、「自分も読んでみたけどこの本の著者スピってるよね?」と突っ込まれてしまうかもしれません。「この論文を参考にしました」と公言していると、「その論文、実験結果の評価が恣意的だよね?」と疑義を呈されてしまうかもしれません。そういう批判的な読みをしてくれてかまわないという知的誠実さこそが、肩書よりも実績よりもなによりも、「本に書かれていることの確からしさ」を保障してくれます。単純に、情報源を辿って確からしさを検証したり、より知識を深めたりすることができますしね。

出版社に実績がある

とはいうものの、実は動物の飼育書で、参考文献をきちんと表記してくれているものは多くはありません。動物種や分野によっては、科学的に十分に検証された情報がまだなく、経験則レベルでしか語ることができないこともよくあります。

そういう場合は、出版社がどこかを見てみましょう。動物関連の書籍を長く出版していたり、生物学の教科書や獣医学書の出版もしていたりするような出版社であれば、飼育書の信頼性も高いことが多いです。具体的な会社名を挙げるのはあまりよくないかもしれませんが、緑書房や誠文堂新光社、エムピージェーといった出版社はおすすめです。

著者に実績がある

出版社以外では、著者が誰か、何をしている人間かを見てみるとよいでしょう。獣医師であったり、ブリーダーであったり、トレーナーであったり、調べたい分野のプロとして活動している人が著者ならば、信頼性は高いと思います。前述の出版社で本を出している人かどうかを確認するのもおすすめです。信頼出来る出版社で本を出したことがあるということは、出版社が「この人は信頼できる」と判断したということですから(漫画・文芸以外の本というのは、出版社が企画を立て、「こいつに書かせよう」と著者を選び、製作するものです)、同じ人が他の出版社から出した本であっても、間違いは少ないと考えられます。

複数の本を買う

これらのことを踏まえても、1冊を選ぶのが不安だというときは、もうたくさん買ってしまいましょう。たくさん本を買ってみて、そのどれにも同じことが書かれているなら、その内容は信じてもよいことが多いです(例外はあります)。はじめて飼う動物ならば、その動物について書かれている本は全部買うくらいの姿勢でもよいだろうと私は思います。

さいごに

さて、そんなわけで、動物を飼うならまず本を読め、というお話でした。

ただ、先に言ってしまうと、本を読んだとて、いざ飼い始めたらわからないことが出てくるのが動物飼育というものです。そういうときはどうするか。それなら人に訊きましょう。SNSや知恵袋でどこの誰とも知らない人、あなたの動物のことを知らない人に訊いたらダメですよ。飼い方のことならその子のブリーダーさんやペットショップに、病気のことならはじめての健診でかかった動物病院に。その子のことを知ってくれているプロフェッショナルに訊くようにしてください。

竹田城が工事中であることを私に告げたタクシーの運転手さんは、落胆する私をみかねて、「しょうがねえから、いちばんよく城を見下ろせる場所に連れてってやるよ。足場で見えないかもしれないけどな」と別の山まで私を送ってくれました。おかげで望遠レンズ越しにではありますが、私は竹田城を拝むことができました。そういう仕事を、私もしたい。

困っていることがありましたら、ぜひ当院へお尋ねください。