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湿度の変化がもたらす犬の皮膚トラブル|湿度管理の重要性について獣医師が解説

2025.04.29

湿度の変化が犬の皮膚トラブルを引き起こす可能性があることをご存知ですか?
犬の皮膚は薄いので、湿度の変化に敏感に反応します。乾燥した冬の季節や、湿気の多い梅雨・夏場には、犬の皮膚トラブルが増加する傾向にあります。

今回は、犬の飼い主様に

  • 乾燥によって悪化する皮膚トラブル
  • 蒸れがもたらす皮膚疾患
  • 適切な湿度管理

について解説します。

湿度変化が犬の皮膚に与える影響

犬の皮膚の特徴

犬の皮膚は、大人の皮膚に比べると薄く、人の赤ちゃんの皮膚のようにデリケートです。また、犬の皮膚のpHは中性~弱アルカリ性です。皮膚のpHが高くなるほど細菌が増殖しやすくなるため、皮膚トラブルを起こしやすいといわれています。

皮膚バリア機能と湿度の関係

健康な犬の皮膚表面には「皮脂膜」と呼ばれる薄い保護層があり、外部からの刺激や細菌の侵入を防いでいます。環境の湿度が適切であれば、皮脂膜は正常に機能しますが、湿度が極端に低かったり高かったりすると、バリア機能が低下してしまいます。

空気が乾燥すると、皮膚の水分が奪われて角質層が硬くなり、皮膚表面にヒビが入りやすくなります。その結果、皮脂の分泌バランスが崩れ、外部からの刺激物や細菌が侵入しやすくなります。

一方、湿度が高すぎると皮膚表面に過剰な水分が留まり、細菌やカビが繁殖しやすい環境になります。特に被毛が密集している部位や皮膚の折り目などは、蒸れやすく皮膚トラブルの温床となりがちです。

空気の乾燥で悪化する皮膚疾患

空気が乾燥する秋から冬にかけては、皮膚の水分が奪われ、バリア機能が低下することで、様々な皮膚疾患が発症・悪化しやすくなります。

代表的な皮膚疾患を解説します。

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合って発症する慢性的な皮膚疾患です。空気の乾燥は症状を悪化させる環境要因の1つです。

アトピー性皮膚炎の犬は、角質層と呼ばれる皮膚バリア機能の中心的な役割を果たす部分に異常があると言われています。特に水分を保持するセラミドの量が少ないです。

セラミド量の不足は皮膚バリア機能を低下させ、外部からの刺激物質(アレルゲン)が皮膚内に侵入しやすくなります。乾燥した環境では皮膚の角質層にひび割れが生じ、さらにアレルゲンが侵入しやすくなることで、強いかゆみや炎症が起こります。

乾燥時期には、室内湿度を適切に保ち、適切な保湿ケアや薬物療法を行うことが重要です。

湿度が高い環境で悪化する皮膚疾患

梅雨や夏場など湿度が高い時期は、犬の皮膚表面に細菌やカビが繁殖しやすい状態になります。特に蒸れやすい環境で起きやすい皮膚疾患について解説します。

脂漏症

脂漏症は、皮脂の分泌異常によって発症する皮膚病です。皮脂が過剰に分泌される「湿性脂漏症」と、皮脂が減少しフケが増える「乾性脂漏症」があります。

湿度が高い環境では特に湿性脂漏症が悪化しやすく、皮膚上のマラセチア(カビの一種)が増殖します。マラセチアは湿気や皮脂を栄養源として繁殖するため、梅雨や夏場は特に注意が必要です。

脂漏症の犬は外耳炎も併発しやすいので、耳の状態も定期的にチェックしましょう。治療には内科的な処置やスキンケアと共に、室内湿度の適切な管理が重要です。

膿皮症

膿皮症は、細菌(主にブドウ球菌)が皮膚に感染して起こる炎症性の皮膚疾患です。特に湿気と熱がこもる梅雨や夏場には、皮膚表面の湿気が増して細菌が繁殖しやすくなります。

主な症状として、赤いぶつぶつや膿をもつニキビのようなもの、かたぶたなどが現れます。被毛が濃く湿気がこもりやすい部位に発症することが多いです。

湿度の高い時期は、散歩後や水遊び後に被毛をしっかり乾かすことが大切です。定期的なブラッシングで皮膚の通気性を良くし、室内の湿度を50~60%程度に保つよう心がけましょう。

指間皮膚炎

指間皮膚炎は、犬の足の指の間の皮膚に発生する炎症性疾患です。この部位は通常でも湿気がこもりやすく、蒸れた環境ではさらに悪化しやすくなります。

症状としては、指の間の皮膚が赤く腫れたり、かゆみを伴うこともあります。犬が足を気にして舐めたり噛んだりする行動が見られることもあります。

特に梅雨時や雨の日の散歩後、水遊びの後は注意が必要です。十分に乾かして、指間に湿気が残らないようにしましょう。

室内湿度の適切な管理方法

犬の皮膚健康を維持するためには、室内の湿度管理が非常に重要です。犬にとっての最適な湿度や管理方法について解説します。

理想的な室内湿度の目安

犬にとって理想的な室内湿度は人間とほぼ同じで、40~60%程度が適切です。この範囲内であれば、皮膚の乾燥を防ぎながらも、細菌やカビの繁殖を抑制することができます。

湿度が40%を下回ると皮膚の乾燥が進み、アトピー性皮膚炎や乾皮症などのリスクが高まります。逆に60%を超えると、マラセチア皮膚炎などの真菌感染症のリスクが上昇します。

特に季節の変わり目や、エアコンを使用する時期は湿度の変動が大きいため、湿度計を設置してこまめなチェックをしましょう。

加湿器・除湿器の効果的な使用法

乾燥時期の加湿対策

冬場や空気が乾燥する時期には、加湿器の使用が効果的です。加湿器を使用することで、室内の湿度を適切に保ち、犬の皮膚を乾燥から守ります。犬が直接加湿器に触れない場所に設置し、水滴が直接犬に当たらないようにしましょう。

カビや細菌が繁殖した加湿器からの湿気は、かえって犬の健康を害することがありますので、定期的にメンテナンスが必要です。
加湿器がない場合は、犬がいるケージやサークルの近くに濡れたタオルを置いたり、洗濯物を干したりすることでも湿気を上げられます。

多湿時期の除湿対策

梅雨や夏場などの湿度が高い時期には、除湿器やエアコンの除湿機能を活用しましょう。エアコンの除湿機能は湿度と共に温度も一定に保つことができるので便利です。

晴れた日には窓を開けて換気を行い、室内の空気を外に逃がすことが効果的です。雨の日や窓を開けられない時は、扇風機で空気を循環させたり、エアコンを使って室内の湿度を下げることを心がけましょう。

まとめ

皮膚が薄い犬にとって、周囲の環境はとても大事です。特に適切な湿度を保つことで愛犬の健やかな皮膚を守ることができます。

季節に応じて加湿器や除湿器を活用し、愛犬の皮膚状態を定期的にチェックしましょう。また、散歩後や水遊び後には被毛をしっかり乾かし、定期的なブラッシングで皮膚の通気性を良くすることも大切です。
監修:行徳どうぶつ病院